鹿に優しい鉄道事故対策

「鹿の踏切」は、鹿と列車の衝突防止が目的です。近畿日本鉄道株式会社様(以下、敬称略の近鉄)で実施した評価実験を紹介します。

鹿の踏切

ユーソニックは、目に見えない遮断器(鹿の信号機)の役目をします。

背景

鹿と鉄道の事故が年々増加していて、全国で列車とシカが接触する事故が増加し平成26年度は5,000件となり、近鉄では、各種対策を実施するも効果が少なく年々増加し288件に達しました。物理的に鹿を侵入させない鹿侵入防護柵を設置すれば簡単に解決と思われますが、次の問題点が発生します。

  • 衝突多発地帯に侵入防護柵を設置すれば設置場所の事故は軽減します。しかし、防護柵が終わった場所で事故が多発します。防護柵を更に延長をすると、また、防護柵が終わった場所で事故が多発します。結局、事故多発場所が移動しただけで全体の事故件数は減らない場合があります。
  • 侵入防護柵を設置した結果、人間が使用する踏切で鹿の事故が発生するようになった。

このように、事故発生場所が移動するだけで投資効果が出ないことがあります。

従来との違い

防護柵を用いた従来の対策は、鹿を線路内から完全排除する方式ですが、今回の方式は、電車が通過する時間帯に限って通行禁止、あるいは線路外に出てもらうものです。鹿が昔から使用していた鹿道は、電車通過時間帯以外は、鹿に解放します。新しい方式達成のために次の手順で進めました。

第1ステップ:小規模評価

まず、ユーソニックの効果を調査しました。

近鉄の路線で鹿と列車の接触多発場所2ヶ所に、2015年12月ユーソニックを設置しました。

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黄色矢印は、ユーソニックを設置している場面です。

評価方法は、監視カメラを用いて動物の行動を確認するものです。監視カメラは、24時間稼働のため膨大な画像データの取得になりました。この画像データは、近鉄が動物の種類や出没時間、動物の行動などを抽出しました。映像を確認する作業は、当初10倍速で出没動物を確認したそうですが、最終的には100倍速でも見分けられるようになったそうです。全ての画像を確認する作業は、気が遠くなる時間です。

第1ステップの映像データを近鉄様より入手することができました。短期間ですが約250件の野生動物(シカ、イノシシ、イタチ、キツネ、タヌキなど)の出没がありました。音が鳴っている時は、無音時に比べてシカの滞在時間が短くなることや、動作時の通過経路と非動作時の動物通過ルートの差からユーソニックの有効距離を知ることができました

この他に、出没頭数推移、動物の出没時間帯と出没数の関係、出没頭数と天候との関係、滞在時間の関係、鹿の線路舐め場所や時間などを調べました。

 

第2ステップ:区間全体の鹿対策

第2ステップは、2016年5月にユーソニックを2台から6台に増やして防護柵も併用しました。これにより駅を挟んだ両側のトンネルまでの約1kmが対策区間となりました。第2ステップの特長は、NHK番組で紹介されたように、近鉄殿が独自にシカの居住区域と獣道(シカ道)を調査し、ユーソニックと防護柵の効果的な配置を導き出した点にあります。シカが頻繁に通る鹿道と線路が交差するポイントをシカ専用踏切位置にしました。これにより、鹿の生態に配慮すると同時に効果も期待できます。シカ踏切は、人間が通る踏切に比べて大きな開口部になっています。「鹿の踏切」は、電車が走行する時間帯にユーソニックから鹿が嫌う音出して鹿の横断を抑制し、列車が運行しない時間帯は、無音にしてシカを通行させる方式としました。

次の写真の黄色矢印は、鹿が通る獣道(シカ道)で、線路への出入り口となっています。

IMG_3668獣道と糞

鹿の糞が落ちていれば確実な獣道です。参考までに鹿の糞を写真右に示します。大きさは直径1cm程度です。

今後の評価ポイントは

  • 鹿の衝突回数の推移
  • 獣道が固定されるか
  • 侵入防止柵の穴あけ被害

相手が動物なので、人間の思うように行かないことが多いのですが、3つ目の侵入防止柵の穴あけ被害については、従来から通行していた鹿道が確保されているので、わざわざ侵入防止柵に穴を開ける必要性が無くなるのではないかと期待しています。もしも、穴あけが無くなれば、安価な獣害用ネット対応で良いと判断できます。更に獣道が確立できれば、獣害ネットが寿命になっても張り替えが不要なる可能性があります。この評価により、鳥獣対策メーカだけでは経験できない貴重なデータを得られています。

 

近鉄の評価を主導した人のお話で、印象的だったものは

  • 最大効果を発揮させるには、ユーソニックの設置位置がポイント、鹿が通る位置を見極めて総合判断すること。
  • 鹿と共存することが、動物愛護の面からも良い。(2017.7.20NHKニュースホット関西より)

今回、自然が豊かな評価場所でした。最初に訪れた時は紅葉、春は桜、そして夏へ。しかし、設置やデータ収集では、雨、みぞれ、炎天下と厳しい自然の中の作業となりました。映像データ解析も大変な作業ですが、設置でも体力を必要としました。路線の安全を守る人達と短い時間ですが、一緒に作業させていただき、安全が当たり前のように乗る電車のありがたさを知ることができました。

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次の写真は、動物監視カメラの映像データから見つけた「特急しまかぜ」です。あまりにも美しいので、動画を静止画像に加工しました。

特急しまかぜ640

 

これは私の個人の計画ですが、「特急しまかぜ」に乗って伊勢志摩に旅行することです。このとき、家族に鹿対策の自慢をしたいと考えています。